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BtoBマーケティング|ベンチャーが事業立ち上げ後に成長が鈍化する背景と対策【概要・後編】

ベンチャー(スタートアップ・新規事業も同様)が事業立ち上げ後、2、3年で成長が鈍化する背景と対策について書いている記事ですが、前編の以下の記事では4つの項目について触れていきました。

  • 事業立ち上げ後、2、3年で成長が急に鈍化する背景
  • 事業展開初期でプロダクトが売れるため、”過ち”に気付きにくい
  • ホールプロダクトという概念
  • 事業立ち上げ初期に売れていたのは初期市場があったから

後編の記事では、「メインストリーム市場の保守派ニーズに対しての自社、競合が提供している価値」そして、「成長が鈍化したベンチャーがどうやってその状況を打破していくべきなのかの戦略概要」を書いていきたいと思います。

メインストリーム市場の保守派のニーズと自社、競合が提供している価値

メインストリーム市場の保守派がプロダクトを購入するのに必要な要素は大きく以下の3つとなります。

  • ホールプロダクト(すぐに使えるサービス)であること
  • プロダクトがマーケットリーダーであること
  • プロダクトに関しての口コミが聞けていること

ホールプロダクトであること

前編でも触れましたが、保守派は、すぐに使える、安心してサービスを受けられるホールプロダクトを好みます。自分自身で多くの手を動かす必要がある、リスクがある、コアプロダクトのみのプロダクトは使いたくないのです(コアプロダクトのみでも買ってくれるのでは、初期市場の顧客)。

大きい市場に目をつけた場合、当然競合は多く、強い競合のほとんどはホールプロダクトをもっています。また不足部分があっても、自社が抱えている豊富な人材をつかって、コンサル的な動きをして埋めてきます

対してベンチャーはコアプロダクト以外はほとんどもっていないので、都度いろいろな対応をしなくてはなりません。体力がないベンチャーはいくつかの、手のかかる大手企業(保守派)から受注をしてしまうと、あっという間に工数が逼迫し、動きが遅くなります。しかし、大手企業の事例が欲しい、売上を上げたいベンチャーはそれをやめることが出来ないまま、とてもゆっくりと事業を進めていくことになります。CPU100%状態が続くPCの様に。

またベンチャーにとって残念なことは、彼らの武器である”コアプロダクトのとんがり”部分は保守派の顧客にはなんの価値もないので、他との差別化が図れないのです。

プロダクトがマーケットリーダーであること

保守派は、プロダクトの購入を決める時に、マーケットリーダーかどうかをかなり気にします。これは稟議を上げたときにも上司から突っ込まれることが多いからです。というのもマーケットリーダーであれば失敗する可能性が低く、なにかあったときにでもスグに対応してもらえる、という安心感があるからです。

彼らはリスク、失敗を恐れる傾向があるので、実績がないけどスゴイいいかもしれないものより、きちんと実績があって、安心して使えるそこそこのプロダクトを好みます

マーケットリーダーの条件として、市場シェアが大体30%を越えているという必要がありますが、これを大きい市場で実現するにはかなり時間と労力がかかります。故に最初から大きい市場を目指すべきではないのです(後述)。

主な競合は既にマーケットリーダーである、もしくはそれに近いことが多く、その彼らからほとんど実績がないベンチャーが予算をリプレイスすることはかなり難度の高いことなのです。

プロダクトに関しての口コミが聞けていること

保守派が新規性の高いプロダクトを購入するときは、口コミによる情報を強く信頼する、という調査結果があります。メインストリーム市場で拡大をするためには、この口コミがかなり重要になります。

前編でも触れましたが、私自身、新しいプロダクトを活用する場合、営業担当からの営業トークよりも、友人からの口コミの方を強く信頼します。似た様な経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。営業担当からはチャンピオンデータ、誇張されたデータが出てきて、ほとんど信頼出来ないけど、似た様な業界、規模の会社にいる人が使った感想はかなり信頼すると思います。

当然、主な競合は既に口コミで情報が伝わっており、保守派は一定の評価をしている状態となります。

ベンチャーがとるべきニッチ市場からの拡大戦略(ボーリングピン戦略)の概論

では、ホールプロダクトもなく、マーケットリーダーでもない、口コミもない状態のベンチャーがどうやって事業拡大していくべきなのか、ということについて概要を説明していきたいと思います。詳細については、今後の記事で触れていきたいと思います。

ニッチ市場からの拡大を目指す

ニッチ市場から拡大を狙う”と言った時に、経験上、90%以上の人がネガティブな反応を示します。私もそうでした。ニッチ市場で成功しても大きく成長できない、上場できない、かっこよくない、などが主な理由だと思います(そして多くの企業が大きい市場から攻めて散っていくのですが)。

大きい市場から攻めても成功しない理由が多くあることは前項で説明しました。保守派に対して提示できる武器がない状態で、メインストリーム市場で競合に勝つことは、皆さんが思っているようりもはるかに難易度が高く、時間と工数がかかることなのです。ベンチャーの唯一の武器である新規性の高いコアプロダクトも、保守派には魅力を感じてもらえません。

故に、ニッチ市場から徐々に攻めて、領域を拡大していき、大きい市場への侵攻を目指すのです。これが”ボーリングピン戦略”です。

メインストリーム市場ではボーリングピン戦略が有効

上図にあるボーリングピン戦略のステップを記載しました。

一番ピンの選定

メインストリーム市場に攻め入るために、最初に攻めるニッチ市場、1番ピンの選定を行います。一番ピンの条件としては以下になります。

  • 自社が提供するプロダクト(サービス)が効果を発揮するセグメントであること
  • そのセグメントを制覇できるほど小さいこと
  • 次の段階で先行事例にできるほど大きいこと
  • 関連した2番ピンがイメージ出来ること

部分的に補足していきます。2つ目はマーケットリーダーになるために、早めにシャアを高められるほどに小さい市場がよい、という背景からです。メイン顧客が一桁しかいない、という市場でも問題ありません。そこを制覇した後で、次のピン、2番ピン、3番ピンとマーケットを拡大していけばいいからです。

が、次の2番ピンを攻めるときに、1番ピンでの事例が全く使えないくらい小さい市場(ネームバリューがない顧客ばかり)だと効率が悪いため、3つめの項目が必要となります。

また4つ目については、1番ピンの市場を制覇し、そこで終わってしまうとせっかくの実績が活用出来ずにまた、1番ピンを探さないといけない、となり効率が悪いです。1番ピンでの実績を活かせる、類似のニッチ市場である2番ピンを目指せる1番ピンを探す、ということが重要となります。

工数を集中してホールプロダクトを提供

1番ピンを決定したら、そのニッチ市場にいる顧客向けのホールプロダクトを強化していきます。同じニッチ市場にいる顧客ニーズは非常に似通ったものになるため、多くのニーズに対応する必要がなくなり、特定のホールプロダクト作りに集中することが出来るため、ホールプロダクトの開発スピードが向上します。

口コミ展開

これもホールプロダクト同様に、同じニッチ市場にいる顧客は互いに既に接触していたり、同じような課題感を持つため、同じようなことにアンテナを張っているため、口コミが伝わりやすい、という環境にあります。

また、こちら側から口コミを仕掛けて広める、ということも比較的容易になります(競合だから話さないか、というとそうでもなく、競合の担当が何を考えているのか、は互いに聞いてみたい、というニーズは多いです)。

マーケットリーダーになる

ニッチ市場を攻めているので、いくつかの企業に導入することが出来れば、スグにマーケットリーダーになることが出来ます。シェアを30%を越えてくると、その市場でのマーケットリーダーブランドが確立されてきます。となると他社も入れているから自社もいれないと、という反応が起こりやすくなり、導入コストが非常に低くなり、営業効率が飛躍的に向上します。

この反応は業界によっても異なりますが、経験上、「製薬、自動車、IT、人材、FMACG系の業界」は強い傾向にあると思います(私の経験から思ったことなので、経験が浅い他の業界は”分からない”というのが正解です)。

2番ピン、そして3番ピンへ

1番ピンでマーケットリーダーになり、十分な顧客を獲得した後は、類似のニッチ市場である2番ピン、そして更に3番ピンとニッチ市場を拡大していきます。そして最終的にはメインストリーム市場全体での大きなシェア奪取を目指します。

おまけ:競争相手の位置づけ

競争相手については、しっかり認識出来ているようで出来ていない、という会社が多いです。社内でもなんとなくココとココが競合、という位の共通認識に留まっているところが多いと思います。

競争相手をしっかり認識し、自社のポジショニングを明確にすると、シャープなメッセージが作りやすく、皆が同じ方向を向き自律的に正しく考えるようになるため、ブレない製品開発をすることができます

予算を奪う、代替手段としての競争相手

代替手段としての競争相手は、顧客の問題解決手段としての競争相手であり、予算を奪う相手です。つまり、自分たちのターゲット顧客にこれまで製品を販売してきた企業であり、この競争相手が解決しようとしている顧客の課題は、自分たちが解決しようとしているものと同じものとなります。

共に市場を変える、対抗製品としての競争相手

対抗製品としての競争相手は、同種製品としての競争相手であり、自分たちと同様に新しいテクノロジーを使って市場を開拓していきます。

彼らの存在は、こちらが提示している新しいテクノロジー、プロダクトを顧客が認知するための手助けともなっているため、相手のテクノロジーを認めながら、彼らとは違うターゲット・セグメントに的を絞って差別化を図る、ということが重要になります(ほとんどの企業はこの対抗製品としての競争相手ともガチンコで競争しています)。

まとめ

「ベンチャーが事業立ち上げ後に成長が鈍化する背景と対策」というテーマで、「前編」、「後編」と記事を書いてきました。

今回の記事で特に重要なのは、

  • 初期市場とメインストリーム市場の顧客特徴は全く違うので、彼らの特徴をしっかりおさえて攻め方を考える必要がある
  • メインストリーム市場を攻めるときは、
    • ニッチ市場から攻めるボーリングピン戦略を意識する
    • コアプロダクトの強化ばかりではなく、保守派が必要としているホールプロダクトを意識する
    • 領域を絞り(ニッチ市場)、全社勢力を集結させ、ホールプロダクト開発のスピードを上げ、早期にマーケットリーダーを目指す
    • 口コミを拡げることを意識する

ということだと思います。

実はこの辺りの話は以下の「キャズム理論」によく書かれている話でもあり、別途それぞれもう少し詳しく解説した記事を書いていく予定ですのでお待ちください(note には一部掲載されていますが)。

この記事を書いている人は浪人時代に願書出し忘れたこともある元ベンチャー社長

大学院時代に起業し失敗、南場さんに惹かれてDeNAにギリギリ新卒として入社。DeNAを卒業後、2つのベンチャーに在籍、一方のベンチャーでは社長を経験。今はニートで子供との時間を楽しんでますが、学生時代は、思春期真っ只中、浪人中に勉強せず、ゲームセンターへ行きまくっていたり、第一志望の大学に願書を出し忘れたりする、というダメな人間でした。。。

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