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BtoBマーケティング|ベンチャー、スタートアップ、新規事業が事業立ち上げ後に成長が鈍化する背景と対策【概要・前編】

BtoB向けの事業を展開するベンチャー、スタートアップ、新規事業(今後はベンチャーというワードに統一)が事業立ち上げ後、少し売れてきてから軌道に乗ろうとしているときにつまづく背景、そしてその対策について、前編、後編の記事に分けて書いていきたいと思います。

事業立ち上げ後、2、3年で成長が急に鈍化する背景

ベンチャーで事業を立ち上げ、少し売れてきて、軌道にのってきたな、イケる、と思った後に、急に成長が鈍化する、という経験をした人は意外にも多いのではないでしょうか。

自分がお手伝いするベンチャー、そして独立してベンチャー向けにマーケティングコンサルをしている人たちの間でもよく挙がる話題です。

彼らによく共通している代表的な過ちは以下の5つです。

プロダクトの機能、性能の強化ばかりしている

とにかくプロダクトのコアの部分を強化していけば、皆に使われるはずだ、と信じ、ひたすらプロダクトの開発、強化に工数を注ぐベンチャーは少なくありません。

ちょっと昔から”プロダクトアウト”、”プロダクトファースト”という言葉が流行してから、その傾向は更に強くなったと思います。

もちろん中には、これまで無かった、本当によいプロダクト、ということでひたすらプロダクトの強化をして成功した企業もありますが、その事例は少なく、基本的にはこれだけでは成功しにくいのです(少なくとも私が見てきた、お手伝いしてきた企業の多くはそうでした)。

しかし、とにかくプロダクト強化だ、そうすれば顧客を獲得出来る、と”ざっくり顧客”と捉え、マーケティング観点をおろそかにし、プロダクト強化に注力し続け、結果多くのベンチャーが失敗しています。

大手企業(保守派)への導入は個社毎にいろいろ対応し工数が逼迫している

プロダクトが売れてくると、そのうちいくつかは大手企業からの(大型)発注を受けるようになります。ベンチャーにとって、大手企業からの受注は有用事例として使えますし、上手く入り込めば受注金額も大きくなると期待出来るので、気合いを入れて対応していくところだと思います。

が、大手企業からの受注をいくつか受け、更に大手企業の”注文”にいろいろ対応していくうち、いつのまにか自社の工数が逼迫していき、他のやりたいことが出来なくなります。また、大手企業にいろいろ工数を割いている割には売上に反映されない、他社になかなか横展出来ない、などの問題がでてきて、頭を悩ませることが多くなっていきます。

大手企業(保守派)の特徴を間違えて捉えている

ベンチャーで働く人は、大手企業が保守的だ、ということを知っています。ただ、ベンチャーで働く人が思う以上に、大手企業が保守的だ、ということを認識している人は多くありません。

ベンチャーに勤めている人たちは、どうしても自分たちの物差しで大企業について考えてしまうため、大企業(保守派)の特徴を間違えてとらえ、彼らに必要なものが揃っていない状態で勝負を挑んでしまうのです。

私自身、これについては相当苦労しました。明らかにバリューが出る、と説明してそれについては納得してもらえているのに、導入が進まない、という経験を何度もしました。この原因は、保守派の特徴がどういうものなのか、プロダクトの導入には何が必要なのか、をしっかり認識していなかったためでした。

(実績が多くないうちから)大きい市場を狙っている

これは本当に多くの人が考えることです。市場が大きいから、そこを攻めるべきだ、という声はビジネスをしていると本当によく聞きます。もちろん私も例外なくそうでした。

大きい市場を狙うのは間違っていません。が、問題は順番なのです。多くの人が最初から大きい市場へアプローチし、先に述べたように少しは売上げるのですが、その後、急激に成長が鈍化していきます。

大きい市場は、その市場で一定のパイをとったときのゴールイメージはもちろん魅力的なのですが、その市場はもちろん皆が狙っているレッドオーシャンなので、最初からベンチャーがその市場でプレゼンスを発揮するのはかなり難しいのです。そんなことは分かっている、となっていても、皆挑戦し、大部分は敗れ去っていきます。

口コミを重要視していない(企業の事例を共有、告知する程度)

ToB マーケティングで見逃されがちなのが口コミ込み効果です。ToC マーケティングだと当たり前の様に話されているのですが、ToB マーケティングだと意外にも少し話される程度です。類似したものに”事例”が挙がることはあります。私自身も口コミの重要性は認識している気でいましたが、実際はほとんど口コミをToB マーケティングに活用することは出来ていませんでした。

新規性の高いプロダクトを導入する場合は、口コミを強く信頼する、という調査結果があります。また、私自身、新しいプロダクト導入を検討する場合は、知り合いに「この製品を使ったことがあるか?どうだったか?」などを聞いておりました。信頼できる人が言っていること、同じようなことをやっている人が経験から言う事はかなり信頼できるのです。が、この口コミはToB マーケティングにおいて、重要な位置にないことが少なくありません。

事業展開初期でプロダクトが売れるため、”過ち”に気付きにくい

これらの”5つの代表的な過ち”についてはなかなか気付くことが出来ません。その目を曇らせる理由としてあるのが、事業の最初にフェーズでは、それなりに売上を上げることが出来ているため「やっぱり我々のプロダクトは市場にウケる!考え方、やり方は間違っていなかった!このままの方向性でイケる!」と思ってしまうところだと思います。

そして、成長が鈍化したころには、大手企業への導入対応、プロダクトの新しい武器の開発等で、工数は逼迫しており、あまり考えることなく、そのまま走り続けようとして、更に深みにはまってしまうのです。

ホールプロダクトという概念

今後の話を進める上で、”ホールプロダクト”という概念を説明します。私はちょっと前までホールプロダクト、という概念をしっかりとは知りませんでした。経験上、なんとなく、薄く意識していた、というくらいでした。

ベンチャーが提供しているプロダクトは上図の”コアプロダクト”であることが多いです。が、大手企業(保守派)が必要としているのはそれだけではなく、”期待プロダクト”、”拡張プロダクト”、までとなります。彼らの多くは、プロダクトを購入したらスグに使える、活かせるという状態を望みます。

前述の通り、ベンチャーが提供するプロダクトの多くはコアプロダクトまでなので、大手企業(保守派)のニーズと差異が生まれているのです。その差異を埋めるために企業では、大手企業(保守派)向けに、例えば”コンサルプラン”や”コンサルパッケージ”と呼ばれるものが販売されており、不足している部分を人力で補っていたりするのです。

力のある企業はコンサルプランとして更にお金をもらうことが出来ていますが、力のない企業は、まずは大手企業から受注し、実績作りをしたいがために、無償でコンサルプランを提供しています。

事業立ち上げ初期に売れていたのは初期市場があったから

初期市場の顧客はコアプロダクトのみでも活用してくれる

ベンチャーが初期市場で売り上げ、成長することが出来ていたのは、初期市場があったからです。初期市場にいるイノベーターアーリーアダプタは、自分たちが成し遂げたいビジョンを完成させるためのブレークスルーを求めており、他社の導入事例などは一切気にせず、自分たちが抱えている悩みに、テクノロジーを活用しようと考えています。

彼らが必要としていることにマッチするコアプロダクトがあれば、他の部分(期待、拡張プロダクト)が足りなくても自分たちで埋めるように働きかけ、プロダクトの導入を決定します。

初期市場では、彼らの存在があるため、コアプロダクトしかないベンチャーでも、一定の売上をあげ、成長することが出来るのです。

メインストリーム市場の顧客は保守派、コアプロダクトが優れていても活用しない

初期市場で売上を積み上げることができたのち、2年ほどで成長が鈍化する場合があります(もっと早い場合、もっと遅い場合、両方あります)。その時に相手にしているのが、メインストリーム市場の顧客、アーリー・マジョリティレイト・マジョリティ、と言われる保守派です。

保守派の特徴としては、ベンチャーが提供するテックプロダクトを使って、何かのブレークスルーを求めている訳ではなく、十分実用に耐える、安心して使えるものを求めている、というものです。彼らはリスクをとることはせず、何より失敗したくないのです。

このメインストリーム市場の保守派に対して、これまで通り、初期市場で売れていたコアプロダクトだけで勝負を挑むと、当然のことですが、売れません。メインストリーム市場の顧客は初期市場の顧客のように不足しているところを自ら埋めるように働きかけたりしないからです。

初期市場とメインストリーム市場の間にあるのがキャズム

初期市場とメインストリーム市場では、顧客の特徴がガラリと変わります。それに気付かず、初期市場の勢いのまま、メインストリーム市場を攻めようとするため、ベンチャーの成長は急に鈍化します。これが”キャズム”にハマる、ということです。この変化に気付き、対応していくベンチャーは成長しますが、この変化に気付かず、キャズムに消えていくベンチャーは非常に多いです。

では、キャズムの先にあるメインストリーム市場の保守派にプロダクトを購入してもらうためには、どんな要素が必要なのか、を【後編】でみていきたいと思います。

この記事を書いている人は浪人時代に願書出し忘れたこともある元ベンチャー社長

DeNAを卒業後、2つのベンチャーに在籍、一方のベンチャーでは社長を経験。今はニートで子供との時間を楽しんでますが、学生時代は、思春期真っ只中、浪人中に勉強せず、ゲームセンターへ行きまくっていたり、第一志望の大学に願書を出し忘れたり、というダメ人間でした。。。

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