スタートアップが陥りやすいキャズムの谷、実際に自分もスタートアップで経営をしているときに、ガッツリとその深い谷へと落ちていった経験があり、その時にこの理論を知っていればという思いと、スタートアップにとってキャズム理論は結構重要だな、と思ったので、以下の書籍を読みながら、自分の経験も交え、ざっとまとめてみました。
重要だな、と思う背景の詳しいところは以下の記事に記載していますので、興味がある方は参考にしていただければと思います。
- BtoBマーケティング|ベンチャー、スタートアップ、新規事業が事業立ち上げ後に成長が鈍化する背景と対策【概要・前編】
- BtoBマーケティング|ベンチャーが事業立ち上げ後に成長が鈍化する背景と対策【概要・後編】
少しでもスタートアップで働く皆さんの参考になれば幸いです(ちなみに周りに聞いてみると、実は気がつかなかっただけで、キャズムの谷に落ちていた、というスタートアップの友人は結構いました)。
最近では、キャズム理論はスタートアップで働く経営者、マーケター、企画、営業、の他に、新規事業に携わる人たちにもオススメ出来るなと思っています。これについてもどこかでそれについても触れようと思っています。
「Part1」の今回は、主に前提知識に近いような内容を、簡単にまとめてみました。
この記事の要約
- テクノロジーライフサイクルには複数の顧客グループ存在し、顧客特徴を踏まえながら、今、自分たちがどの顧客グループを相手にしているかを見極め、その顧客に合ったマーケティング戦略、戦術を展開することが重要
- スタートアップの人たちを苦しめる「キャズム」と呼ばれる深い谷の両端にいるアーリー・アダプタ(ビジョナリー)とアーリー・マジョリティ(実利主義者)の属性はかなり違うため、十分に理解し、戦略、戦術を展開することが重要
テクノロジーライフサイクルの顧客グループ特徴
テクノロジーは、購買者の特性、社会的に置かれている状況を反映したいくつかの段階を経て市場に受け入れられていきます。
今、どの顧客を相手にするフェーズなのかを理解し、その顧客に対しての適切な打ち手を打つことが重要です。まずは基本となる5つの顧客グループについて簡単に紹介します。
【代表的な5つの顧客グループ】
イノベーター(テクノロジー・マニア)
・最大の関心事は新しいテクノロジー、製品がどのように役立つかは二の次
・新製品の可能性を誰よりも早く理解
・初期段階で製品に対して良質なフィードバックをくれる
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マーケティング活動の初期に注目を集める必要があるのがテクノロジー・マニア。彼らの会社の人、社外の潜在顧客に対し、口コミで製品を宣伝してくれるので、責任者と密接な関係にあるこの支持者を探すことが重要。テクノロジー・マニアと連絡を取りたければ、彼らがアクセスしがちなウェブサイトにメッセージを残す。
アーリー・アダプター(ビジョナリー)
・製品の購入を決める際には他社の導入事例は一切気にせず、自らの直感と先見性で決める
・単なる改善ではなくブレークスルーを求めており、自分たちが抱えている問題にテクノロジーを適用してみようと考える
・”ビジョン”を実現するための予算を与えられているので、上席の役員以上のポジションであることが多い(マーケティング製品の購入決定に関して大きな権限を持っている)
・外交的、野心家であるため、成功事例として紹介されることを歓迎する
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故に、こちらからは探しにくく、ビジョナリーからこちらに連絡が入るケースが多い(テクノロジー・マニアからの情報をもとにこちらの存在を知ることが多く、そのため、テクノロジー・マニアの関心を集める必要がある)。テクノロジー・ライフサイクルの初期に、多額の収入と大きな宣伝効果をもたらしてくれるビジョナリーが進めるプロジェクトを成功させない限り、新しいテック製品が市場に出されることはない。
アーリー・マジョリティ(実利主義者)
・マーケット・リーダーから製品を買いたがる
・決してパイオニアなどにはなろうとせず、自分たちが買う前に他社の動向を伺い、他社の導入事例を確認してから購入する
・テック製品を扱うことにはさして抵抗を感じない
レイト・マジョリティ(保守派)
・手厚いサポートをうけるために、実績のある大企業から製品を購入したがる
・テック製品を扱うことに多少の抵抗を感じる
・テック製品そのものに関心は無く、製品があたかも日用品のごとく扱われているときに購入する
・不連続なイノベーション(※)は受け入れない
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テック企業が相手にしないことが多いのが保守派。大きな利益幅は期待出来ないが、その購買量の大きさゆえに、適切な方法で保守派に接する売り手には大きな利益がもたらされる。保守派に対するマーケティングを成功させるためには、必要とされそうなソリューションをパッケージの中に全て盛り込むこと、パッケージを効率的にターゲット・マーケットに流通させるためにできるだけ人手のかかわらない販売チャネルを確保すること、の2つが重要。
※「不連続な(破壊的な)イノベーション」は人々の行動様式に変化をもたらす製品のこと。「連続的(持続的)イノベーション」は製品の通常のアップグレード、行動様式を変えるモノではない。
ラガード(懐疑派)
・テック製品には見向きもしない人たち
・テック製品を買うときはテック製品が他の製品に組み込まれ、目に見えないとき
・顧客にとって真に価値あるものは、「顧客が製品から価値を引き出すためにいかなる協力も惜しまない」という売り手の姿勢
自分の経験からは、アーリー・マジョリティは更に「データドリブン型」と「非データドリブン型」の2つに分かれるのではと思っています。ので、まずは「データドリブン型」から攻める、ということが重要になるのではと思っています。
ベルカーブに存在するクラックとキャズム
テクノロジー・ライフサイクルの中では、キャズムを含めた代表的な3つの谷があります。
この谷の前後では、顧客属性がことなるため、次の顧客属性に合わせたマーケティング戦略、作戦を展開することが重要です。
キャズム
・アーリー・アダプタとアーリー・マジョリティの間に存在
・アーリー・アダプタが「変革」を求めているのに対して、アーリー・マジョリティは現行オペレーションの生産性を改善する手段、「進化であって、変革ではない」モノを購入しようとする
・両者に共通点が少ないためアーリー・アダプタはアーリー・マジョリティの適切な先行事例となりにくい
1つ目のクラック
・イノベーターとアーリー・アダプタの間に存在
・イノベーターからアーリー・アダプタに訴求するためには、これまで実現出来なかったことが新しいテクノロジーによって実現出来るというコトを、テクノロジーに詳しくない人たちにも理解させないといけない
2つ目のクラック
・アーリー・マジョリティとレイト・マジョリティの間に存在
・アーリー・マジョリティはテクノロジーに強いが、レイト・マジョリティはテクノロジーに強く無いため、テクノロジー(製品)が顧客(レイト・マジョリティ)にとって飛躍的に使いやすいモノになっていなければならない
キャズムでは、先行事例と手厚いサポートを必要とする顧客(アーリー・マジョリティ)を、彼らにとって有効な先行事例と強力なサポートなしで攻略しようとしている、ということになり、それに気付かないまま進もうとするとキャズムの谷にハマる、ということになります。
私もアーリー・アダプタの事例をもって、彼らを攻めたときのやり方と同じ方法で、アーリー・マジョリティを攻めましたが、ピタッと成長が止まりました。
アーリー・アダプタで勢いが出ていたので、そのままイケる、と思っていたのですが、突然急ストップした印象で、その理由がよく分かっていなかったので、打ち手に苦労しました。
成功へのカギ
- 今がテクノロジー・ライフサイクルのどの段階にあたるのかを見極め、
- その段階における顧客属性をよく理解し、
- その顧客層に合ったマーケティング戦略、戦術を展開すること
が、ざっくりとした成功へのカギとなります。詳細についてはPart2以降で書いていこうと思っています。
テクノロジー・ライフサイクルの全段階は速やかに滞りなく通り抜ける必要があります(各段階で時間が空きすぎると次のステップにいきにくくなる)。またそれぞれの段階で捉えた顧客グループを、次の段階の顧客グループを攻略するための先行事例として活用することも重要です。(が、キャズムは別)
初期市場とメインストリーム市場
初期市場
・初期市場の顧客はイノベーターとアーリー・アダプタ
・初期市場が形成されるのに必要な3つの要素は、
ー 顧客が必要としているシステムを実現可能にする斬新なテクノロジー
ー そのテクノロジーを評価して、それが現実市場に出回っているものよりも優れていることを実証してくれるテクノロジー・マニア
ー そのテクノロジーを使って現在の業務を飛躍的に進歩させようと考える、予算獲得ができるビジョナリー
メインストリーム市場
・アーリー・マジョリティ、レイト・マジョリティから成る市場(共に全体の1/3を占めるため、メインストリーム市場で全体の2/3と、大きな市場となる)
・ここで必要な製品は、最高の機能や性能を誇るものである必要はなく、十分実用に耐えるものでありさえすればよい
・保守派にとっては、製品そのものよりも顧客が受けるサービスの方がはるかに大切(製品自体がもつユニークな機能は、テクノロジー・マニアには最高の価値をもたらすが、保守派にとっては何の価値もない)
ビジョナリーと実利主義者の違い
初期市場とメインストリーム市場で隣り合っている、キャズムの両端に存在する、ビジョナリーと実利主義者の違いは、大きく以下の4つとなります。
- ビジョナリーは、他企業の経験を活用しようとしない
└ビジョナリーは同業者の多くが既に使っている、十分にテストされた製品を購入しようなどとは思わない
└実利主義者は他企業の経験を最大限に活用しようとする - ビジョナリーは、自分たちの業界のことよりもテクノロジーに深い関心を抱く
└実利主義者は未来的なものにはあまり関心を示さない、業界の発展をいつも考えている人たち - ビジョナリーは、既存の製品インフラに頓着しない
└ビジョナリーは自分たちがスタンダードを打ち立ちようと考えている
└実利主義者は多くのものが事前に揃っていることを望む - ビジョナリーは、周りを混乱させても気にしない
└ビジョナリーは一カ所に長く居続けるタイプではない
└実利主義者は現在の勤務先で、長期にわたって自分の専門を全うしようと考えている
このような大きな違いがあるが故に、ビジョナリーは、初期市場からメインストリームに進むときの、実利主義者にとっての大切な先行事例にならない、ということになります。
テック企業が「最先端技術」を宣伝したいと思っていても、実利主義者が聞きたいのは「業界標準」であるために興味がないのです。このようなことを認識していないスタートアップが多いために、キャズムに消えていく、ということになります。