この記事は「前提知識 - スタートアップで働く人に勧める「キャズム理論」」の続きとなります。
Part1では主に「前提知識」の内容について記載してありますので、興味がある方はそちらも参考にしていただければと思います。
この「Part2」では「どの市場から攻めるか」について記載していきたいと思います。
【前提】この記事の主な対象者
この記事を是非読んでほしい方は以下の様な方々かなと思っておりますので、その方々にとって(そうでない方も居るかもしれませんが)、少しでも参考になればと思っております。
- スタートアップの経営者
- スタートアップのマーケティング、営業、プロダクトオーナー(企画)
- 新規事業、新サービス立ち上げの責任者やメンバー
それでは「Part2」の「どの市場から攻めるか」についての内容を記載していきます。
ニッチ市場から攻める
これからメインストリーム市場へ攻め込もうとするとき、つまりキャズムを越えるためには、支配できそうなニッチ市場をターゲットとし、そこからライバルを追い払い、そこを起点としてさらに戦線を拡大する、ということをしなければなりません。
その時に重要なのは、マーケット・セグメントをどこまで「絞り込んで」切り出せるか、にかかっています。絞り込みが効果的に行われるほど、そのマーケット・セグメントに向けて発信するメッセージの作成が容易になり、口コミで早く伝わる様になります。また「絞り込んだ」相手は、攻略可能な相手であり、将来的にもそこを起点にして市場を拡大できる相手である必要があります。
キャズムを越えられずに敗退する大きな理由は、メインストリーム市場には多くの可能性があるため、焦点を絞りきれずにあらゆる可能性を追い求め、結局、どの実利主義者に対しても相手が納得するソリューションを提示出来ないで終わる、というものです。
これについては、これまで本当にいろいろなところで見てきましたし、自身も中心となって体験してきましたので、皆さんにも是非強くお伝えしたいと思います。
キャズムを越えるときには、ホールプロダクト、口コミ、マーケットにおけるリーダーシップ、という3つの要素が重要になりますが、この点からもニッチ市場を攻める、ということが重要になります。簡単に3つの要素、ホールプロダクト、口コミ、マーケットにおけるリーダーシップ、について解説します。
ホールプロダクト
まず目指すことは、実利主義者の顧客を獲得し、そこを起点としてメインストリーム市場の他の顧客を攻略することです。このとき、最初の顧客の購入目的が完全に実現されるように、万全の体制で臨む必要があります。
注意するべきなのは、単に自社が販売している製品だけではなく、ホールプロダクトを顧客に提示する必要がある、ということです。
【ホールプロダクト】
顧客の目的を達成するために必要とされる一連の製品やサービス
ホールプロダクトを提供するには大きなコスト負担を強いられるので、顧客にホールプロダクトを提示する場合には、戦略的にかつ、顧客を絞る必要があります。
先にも述べましたが、ボーリングの一番ピンを攻略した後も、別の近しい攻略することができそうな顧客を重点的にサポートする必要があります。
ここでもある程度のコスト負担を強いられる可能性があるので、会社の資源をどこに使うかは非常に重要な問題です。なので、営業部隊は最初、一つのニッチ市場に焦点を絞る必要があります。
それ以上手を広げると、貴重な会社の資源を使い果たし、確約したホールプロダクトを提供することは難しくなり、いつまでも実利主義者に利用されることなく、キャズムの谷に落ちていくことになります。
「選択と集中」という言葉は、ビジネスでよく聞く言葉で、自分自身も好きな言葉であり、重要な言葉だと思います。これは改めて聞くと「当たり前だろう」と思われる人がほとんどだと思いますが、実際に有言実行している人はかなり少ないと思っています。
営業現場において、大手で予算をたくさん持っている顧客の要望は全て叶えて受注していこう、というレベルの話ですらよく聞きます。キャズムを越えようとしているときに、販売重視の戦略を立てるのは致命的です。
口コミ
新市場に入っていくときは、自社製品が顧客の口コミで評判になることが必須条件です。テック製品を購入するときは口コミによる情報がもっとも信頼される、という調査結果もあります。
一つのセグメントで複数社の顧客を獲得した場合、この口コミ効果が十分に発揮されるため、ニッチ市場を攻める必要があるのです。口コミ効果が無いと、製品を売り込むのに苦労することになり、結果、販売コストが上がり、売上が不安定になります。
この「口コミ」についての内容は、最初書籍で知ったときは「軽視はしていないけど、本当にそこまで重要なの?」という感覚でしたが、確かに振り返ってみると、私自身も新しい製品を活用する場合は、それを使っている信頼出来る人から言われて検討、採用、ということは少なくありません。逆に自分から人に聞いて参考にする、ということもかなり多いです。
よくHR系、とくに採用関係のサービスなどで使ったことがないものを検討することが多かったのですが、その場合、そのほとんどすべてについて、知り合いに聞いて、情報を得てからサービスの契約をしておりました。
マーケットにおけるリーダーシップ
Part1 でも実利主義者の特徴については触れましたが、実利主義者はマーケット・リーダー以外からの購入は避けたい、という特徴があります。なので、まずはマーケット・リーダーになる必要があるのですが、マーケット・リーダーになるためには、その市場の50%(時期によっては少なくとも30〜35%)が必要です。
その為、いきなり大きなマーケットでマーケット・リーダーになることは非常に難しいため、ニッチ市場でのマーケット・リーダーを目指します。つまり、早くマーケット・リーダーになるためには「小さな池で大きな魚になる」というアプローチが有効なのです。
ニッチ市場の次は
ボーリングピン戦略
二番目以降のニッチ市場を選ぶときには、最初のニッチ市場でのソリューションを活用できるような市場を念頭に置くことが重要です。つまりキャズムを越えるには「一番ピン」を倒して、橋頭堡(※)を築き、その次に類似した二番ピンを攻めることが重要になるのです。
(※)橋頭堡・・・敵地などの不利な地理的条件での戦闘を有利に運ぶための前進拠点であり、本来の意味では橋の対岸を守るための砦のこと
キャズムを越えようとするときには、一番ピンの大きさ(顧客の数)は重要ではなく、解決されるべき問題の経済価値(顧客が感じている痛みの大きさ)が重要となります。問題が深刻であればあるほど、ターゲットとしているニッチ市場が企業をキャズムから引き上げてくれる力がより強力なものとなります。
【ボーリングピン戦略】
先頭のピン(橋頭堡、最初に攻めるマーケット・セグメント)を倒し、連鎖反応を上手く利用して、続いて二番ピン(次のマーケット・セグメント)を倒す、というように市場を拡大させていくこと
キャズムを越えるときに橋頭堡として選ぶべきセグメントとしては、以下の3つが重要です。
- 次の段階で先行事例にできるほど大きいこと
- そのセグメントを制覇できるほど小さいこと
- 企業が提供する製品(サービス)が効果を発揮するセグメントであること
キャズムを越えた成功事例:セールスフォース
▼ 狙ったセグメント
・営業担当者”のみ”
・ターゲット・カテゴリーで”中位”に位置している企業
└カテゴリーのリーダに対抗するために社内のシステム化を必要としている
└大規模なIT投資が許されない企業規模
・米国内”だけ”を対象
└いつでも接触できる、アーリーアダプタの国を対象に
・”テクノロジーに詳しい”業界を対象
└ハイテク企業、通信会社、製薬会社、金融サービス会社等
▼ 解決した課題
・四半期目標を達成する
└営業とその上司が営業のパイプライン(進捗状況)を把握することが主目的
【前提】この記事の元になっている書籍
上図の書籍に書いてあるものに、自分の経験や意見などを少しまとめたのがこの記事となっております。興味が出てきたのでもっと詳細に知りたい、ということでしたら書籍の方を読むことをオススメします!